こんにちは、コウノ工房のコウノです。
日々、黙々と仕事をしております。ひとりは苦ではないけれど、チームワークにも憧れます。
さて、最近は情シス代行なるサービスがございます。IT部門を外部に委託するというわけですね。ITは専門知識が必要なところも多々ありますので、アウトソーシングは有効なのはよくわかります。ただ、丸投げで全てをいい感じにという訳にはいかないし、やっぱり具体的に伝える方がコストも抑えられるのが現実です。
ITに限らず、外注か内製化は悩ましいところでございますので、現役プログラマとしてさまざまなな職場をみた経験から、どのように切り分けていけばよいかを解説します。
内製と外注のメリット・デメリット
まず「どちらが正しいか」ではなく、「どの業務を、どの段階で、どう組み合わせるか」を考えるな重要です。内製は知識が社内に残る反面、現場の負荷が重くなりがちですし、外注は品質が高い一方、運用や変更のたびにコストが発生します。下の比較表は、現場の回しやすさという観点で整理したものです。
| 観点 | 内製のメリット | 内製のデメリット | 外注のメリット | 外注のデメリット |
|---|---|---|---|---|
| 業務理解 | 現場ルールの吸収が速い 暗黙知まで取り込める |
現場が忙しいと要件が遅れる | 専門家が第三者視点で整理してくれる | “現場語→仕様語”の翻訳に時間がかかる |
| 仕様変更 | 小改修が即日で回る | 人が抜けると止まりやすい | 体制化・ドキュメント化が前提になりやすい | 仕様変更ごとに見積・調整が必要 |
| ノウハウ | 社内に蓄積・再利用できる | 採用・育成コストが重い | 最新プラクティスを短期で導入 | 学習の機会を社内に残しにくい |
| 品質 | 現場に合う“必要十分”の作りにしやすい | 品質ばらつき・レビュー不足 | テスト観点が厚い/標準化されている | ベンダーロックインの懸念 |
| セキュリティ | 機密保持の線引きが容易 | セキュリティ設計が後手になりがち | 標準のセキュリティ手順を適用 | 社外共有が前提になる |
例えば、ワークフローのシステムを導入するとしましょう。外注=丸投げではありませんから、申請ルートや承認権限などの要件定義・受入基準・運用は社内で握り、“作る手”だけ外に出すのが原則です。これを外すと、後工程(保守・変更)で必ず詰まります。
外注・内製化の判断基準
結論から言うと、外注担当が完成までを“頭の中で完全にイメージできるほど”金額は明確になります。イメージのしやすさを決めるのが次の4軸です。
- 量(ボリューム):画面数/帳票数/月間件数/ジョブ頻度/レコード数などが数で言えるか。
- 独自性:要件が一般解で済むか、自社固有の例外ルールが多いか。
- リードタイム:いつまでに何が必要か(本番日・締め日・並行運用期間)が明快か。
- 専門性:市場に出回っていないサービス/非機能要件(性能・監査・セキュリティ)が要るか。
反復で手順が安定し、外注の見積が収束するため、量が多い業務は外注しやすい傾向にあります。ただし、例外(独自性)とリスク(機微情報・権限)が高い業務だと敬遠される傾向にあるため、同時に整地しないと、コストは跳ねます。
| 可変性 低(例外少) | 可変性 高(例外多) | |
|---|---|---|
| 量 多 | 外注本命:単価が逓減/SLA設計が容易(例:毎日のアカウント登録、日次データ取込、定型請求発行) | ハイブリッド:標準は外注/例外判断は社内(例:経費精算は閾値以下を外注、超は社内) |
| 量 少 | 内製 or 小口外注:雛形を作って内製運用 | 内製推奨:まず“型”を作ってから部分外注 |
- 低量×低独自×締め明快×汎用スキル … 外注本命(価格が揃う)
- 高量×高独自×締め可変×高専門 … 内製主導+要点外注(設計レビュー/負荷試験など)
- 量だけ高い … 分割して外注(1画面・1帳票・1KPI単位)
- 独自性だけ高い … 仕様づくりは内製、作る手だけ外注(“型”に落として渡す)
外注・内製化の事例
この章は、「どこを社内で持ち、どこを外に出すか」の境界線の引き方をイメージできるよう、代表的な業務で分解しています。ポイントは、受入観点(テスト条件や例外パターン)を最初に作ること。受入が固まっていれば、内製でも外注でも品質がブレません。
RPAシナリオ開発
例えば、経費精算は件数が多い業務ですが、“頻度×例外”も多く、手戻りを減らす設計が勝負所です。このような場合は、設計のみ内製化してシナリオ開発を外注するのスムーズです。
- スコープ:申請→承認→仕訳の1フロー
- 内製:業務ルール定義、例外パターン洗い出し
- 外注:RPAシナリオ開発・堅牢化(UiPath/Power Automate)、監視・ログ設計
- サービス種別:RPA作成代行/導入支援
人が判断する線とロボが自動でやる線を先に決めます(例:金額閾値、領収書の判別基準)。運用の通知・再試行設計まで含めると止まりにくい。
BIツール開発
営業担当向けのダッシュボードは「定義の統一」がすべて。見た目より、用語集と計算式です。
- スコープ:受注・粗利・進捗の3指標
- 内製:指標定義、下書きダッシュボード
- 外注:ETL整備、差分更新、失敗検知、権限設計
- サービス種別:BI実装支援(ETL/Power BI 等)
先に粗利=売上−原価(含む/含まない)を明文化。集計粒度(商品×月、顧客×月)と締め日も最初に合わせます。
アカウント管理
入社前後は各システムのアカウント更新が発生し、漏れが生じやすいです。テンプレの整備で品質を均一化します。
- スコープ:入社前7日~当日のToDo
- 内製:依頼フォーム、配布物テンプレ
- 外注:Microsoft 365/Google Workspace のアカウント自動発行、権限テンプレ作成、監査ログ設定(= アカウント登録業務)
- サービス種別:アカウント発行フロー設計/ID管理連携
退職・異動の棚卸サイクル(例:四半期)を必ずセットで設計。アカウント“残骸”をゼロに。
社内ヘルプデスクの一次回答
“同じ質問が何度も来る”を減らすための一次切り分けがテーマです。
- スコープ:FAQ上位20件+問い合わせ導線
- 内製:FAQ原稿、ナレッジ運用ルール
- 外注:検索最適化、チケット連携、SLA通知設定
FAQは“利用者の言葉”で書き、タグと命名規約を決めます。決定事項はその日のうちに反映。
ホームページ運営(WordPress保守+更新代行)
“止めない・荒れさせない”が目的。運用定義>技術の順で進めます。
- スコープ:本体/プラグイン更新、簡易改修、バックアップ
- 内製:掲載内容の方針決定、草案作成
- 外注:WordPress保守、記事入稿・バナー差し替え、障害一次対応
- サービス種別:WP保守/サイト更新代行
更新カレンダー(いつ、誰が、何を)と復旧手順を共有。アクセス権の最小化も同時に。
IT機器管理
端末準備は作業の分解が勝ち筋。1台の作業票をテンプレ化します。
- スコープ:PC/スマホの初期設定~資産台帳登録
- 内製:機種選定、標準ソフト一覧・ポリシー決定
- 外注:キッティング(初期設定・アプリ導入・ネットワーク設定・台帳登録)+MDM基本設定(Intune 等)
- サービス種別:キッティング代行/MDM導入支援
ラベル貼付・台帳登録・引渡しチェックまで含むと抜けが減ります。BYODの線引きも同時に。
主な外注サービスと費用(目安)
費用はスコープ・品質・責任範囲で大きく変わります。あくまでレンジ感として参照ください。正式見積では、受入基準(成果物・テスト・教育)を先に言語化するとブレにくいです。
RPAシナリオ開発・運用
- 開発代行(1シナリオ):5〜30万円程度(複雑で50万超も)
- 月額保守:3〜10万円/月(監視・小改修を含む軽保守の例)
Excelマクロ(VBA)制作
- 小規模(入力支援/集計):5〜10万円目安
- 中〜大規模(帳票自動化/他システム連携):10万〜数十万円
BI実装支援
- ライセンス例(Power BI Pro):1,000円台/ユーザー/月が目安
- 小規模実装(6〜8週):150〜400万円(ETL整備+3〜5画面+アラート等)
ホームページ運営
- WordPress保守:月1万〜5万円
- サーバ費:月1,000円前後〜(契約年数・キャンペーンで変動)
IT機器管理(キッティング)/MDM
- キッティング:1台あたり数千円〜(内容により大きく変動)
- MDM(例:Intune相当):1,000円前後/ユーザー/月のレンジ感
見積比較は「①範囲(要件・非機能)②品質(テスト・監視)③運用(通知・教育)④変更単価」の4列比較表にすると、一気に可視化できます。
まとめ。業務に合わせて外注と内製化をミックスするのが理想的
判断は4軸(コア・変化・秘匿・運用)で荒く素早く。迷ったら小さく切って試す。
受入の型(チェックリスト・例外・SLA)を先に作ると、内製でも外注でもブレない。ハイブリッド運用(仕様と運用は社内、作る手は外)で、短期の成果と中長期の学習を両立。数字は削減人時・差し戻し率・停止件数・回収期間で追う。意思決定の軸がブレません。


