こんにちは、コウノ工房のコウノです。
IT機器の導入・管理を担当しています。
ここ数年、社内のPCやスマホ、SaaSの契約が少しずつ増えるのを眺めながら、「誰が何を持っていて、どれが使われていないのか」を即答できない場面が気になってきました。台帳は存在しているのに最新ではない、請求は来るのに利用者がはっきりしない――そんな“もやもや”が、IT資産管理を考えるきっかけになっています。
IT資産管理とは何なのか、なぜ必要に見えるのか、導入した場合の良さと、しなかった場合の怖さについて、実務の断片を拾いながら考えてみました。Excel運用と専用ソフトの違い、そして“回すためのリズム”についても、自分なりに考えました。
IT資産管理とは
「いま、何がどこにあり、だれが関わっているか」をいつでも言語化できる状態――これがIT資産管理の最小単位だと捉えています。IT資産管理とは何かを以下のようにまとました。
- 対象:端末(PC/スマホ)、周辺機器、ソフト・ライセンス、SaaS、クラウド、ユーザー・権限、契約や証憑
- 軸:調達 → 配備 → 運用 → 回収 → 廃棄(ライフサイクルで眺めると漏れが見えやすい)
- 成果:最新の資産一覧と、貸与・返却・消去などの痕跡(証跡)。ダッシュボードは“現在地の地図”として有効
完璧な名簿を最初から作るより、更新し続けられる仕組みを先に用意した方が息が長い、というのがいまの結論です。
なぜ必要か
Excelと記憶で回しているうちは、気づいた人がなんとかしてくれます。けれど、台数やSaaSが増える、拠点や入退社が重なると、状況を追いきれなくなります。
- 端末・SaaSの増加、拠点の追加でExcel運用の限界点が近づく
- 入退社・異動のピーク時に貸与・回収・停止の抜けが出やすい
- リモート/BYODになると所在や設定の“見えにくさ”が増す
- 監査では証跡の有無がダイレクトに問われる
- 未使用ライセンスや重複契約は、“気づかないコスト”として残りやすい
いざという時に5分で一覧を出せるかが一つの境界線を感じています。
導入メリット(効果と測り方)
仕組みを入れると、まず“探す時間”が減ります。すると、セキュリティやコストの話も、感覚ではなく数字で語りやすくなるように思います。
期待できそうなこと
- 可視化:所在・責任者・状態が並ぶと、棚卸の時間が短くなる
- セキュリティ:未管理・脆弱端末の早期発見→是正が回しやすい
- 監査対応:貸与履歴や消去証明を“その場で”出しやすい
- コスト:未使用席の回収、更新・解約漏れの抑制に効きやすい
- 運用品質:入退社や配備を定型フローにすると手戻りが減る
指標として置きやすかったもの
- 資産カバレッジ率/棚卸差異率
- 退職当日完了率(停止・回収・証跡)
- 未使用ライセンス率
- 未管理端末の検出から隔離までの時間
最初は「棚卸時間」と「未使用ライセンス率」だけでも十分。そこから徐々に広げると、腰が軽くなりました。
導入しないとどうなるか
“困った時に台帳が古い”と、次の一手が遅れます。実害は徐々に、しかし確実に積み上がる――そんな印象です。
起きがちなこと
- 情報リスク:退職者アカウントが生存/紛失端末を遠隔で触れない
- 監査対応の負荷:証跡不足で差し戻しが続き、現場が疲弊
- コストのにじみ:使っていない席の継続課金、重複契約の看過
- 運用の滞留:所在不明・貸与不明で収束が遅い
- よくある落とし穴:Excelの乱立、資産ID重複、シリアル未記録、廃棄証明の置き場所迷子
“いつでも証跡を出せるか”が、想像以上に効く。ここが弱いと、小さな火種が長引く感覚があります。
一般的なIT資産管理方法
エクセルやスプレッドシートによる管理
始めやすさは抜群です。少数・固定的な環境では、これで十分に回る場面もあると思います。
メリット
- 初期費用ほぼゼロ、今日から動ける
- 自社の実務に合わせて列や様式を柔軟に
- 棚卸・貸与表などのテンプレが作りやすい
デメリット
- 自動発見がないため、入力漏れと更新漏れが課題に
- 版管理が難しく、重複ファイルや競合が発生しがち
- 証跡・添付・権限分離の作り込みは地味に重い
- 台数や監査要件が増えると途端にしんどい
管理項目
- 端末台帳:資産ID/種別/型番/シリアル/OS/貸与者/部署/所在/購入日/保証期限/状態/暗号化・EDR/最終チェックイン
- SaaS台帳:サービス名/契約者/管理者/席数(購入/使用)/月額/支払方法/更新日・解約期限/SSO有無/管理URL
“最初の土台”としては心強い。ただ、増え始めたら次の段階(専用ソフト)を視野に入れるのが現実的に思えます。
IT資産管理ソフトによる管理
専用ソフトは“自動で集める”仕組みが売りです。うまくはまると、棚卸や入退社の流れと証跡まで一体で扱えるのが魅力。ただし、導入前後の整備には相応の手間も見えました。
体感した強み
- エージェント/MDMで自動インベントリ(実機情報の自動収集)
- QR棚卸で差異の是正までワンフロー化
- 入退社・廃棄(ITAD)を証跡つきワークフローで運用
- ライセンス利用率やSaaS席の可視化→回収が仕組み化しやすい
- 監査レポート、権限分離、変更履歴などが標準装備になりがち
気になったコスト・手間
- 月額/年額のランニングコスト
- 移行前のデータ整備(名寄せ・重複解消・欠損補完)は避けられない
- 現場の教育と運用設計が必要
- 初期のひと仕事:台帳整備に加えてエージェント/MDM登録などの展開作業も発生(ここを並走させるのが現実的)
日本で“よく耳にする”例
- Microsoft Intune:Windows中心なら候補に上がりやすい
- LanScope Cat:資産管理+操作ログで内部統制の文脈に強い
- SKYSEA Client View:ログと資産を一体で見る運用がしやすい印象
- AssetView:配布・制御・棚卸まで幅広く網羅
“自動で集まる”割合が増えるほど、人手の揺らぎが減る。一方で、最初の整備と教育は避けて通れない坂だと感じました。小さく試して、うまくいく型だけ横展開するのが無難そうです。
IT資産運用の具体例
定着の鍵は“リズム”だと感じています。週・月・四半期・年でやることを分け、短い手順に落とすと回しやすい。
- 週次:OS/アプリ更新の確認、未管理端末アラートの是正、退職予定者の準備
- 月次:未使用席(最終利用30日なし)の抽出→通知→回収申請→承認、棚卸差異の是正レポート
- 四半期(3か月ごと):QR棚卸の実査、所在不明や記録不備の解消、監査提出パックの更新
- 半期/年次:リース・保守・サブスクの更新/解約期限の見直し、廃棄とデータ消去証明の取得、KPIレビューと改善計画
“誰が・いつ・何を”まで決めた5分版の手順書があると、引き継ぎの摩擦が減りました。最初は週次と月次の2本柱だけでも十分動きます。
まとめ
IT資産管理のコアは、結局のところ「現在地の見える化」に尽きるのでは――というのがいまの見立てです。ここが整うと、漏えいリスクや監査の負担、ムダなコストが少しずつ下がっていく感覚があります。
最初は資産ID/シリアル/貸与者/所在の4点から。入退社と廃棄の証跡を添える。台数やSaaSが増えてきたら、自動収集できる仕組み(UEM/MDMやITAM)に寄せていく。この順番が、自分には無理が少なかったです。
KPIは「資産カバレッジ率」「棚卸差異率」「退職当日完了率」の3つから始めてみる――そんな仮説で動くと、改善が数字で見えやすくなりました。完璧主義より回し続けること。この姿勢が一番の近道かもしれません。


